又幸プロジェクトは、りんご箱という青森県の人と自然が生み、育んだ類いまれなプロダクトのもつ文化と美点を、家具という新たな視点でリデザインすることにより、りんごを巡る文化を再評価し活性化する試みです。

 私、姥澤大(うばさわまさる)は日本一のりんご産地、青森県で長年りんご箱を製作販売する家に生まれました。岩木山を望む一面のりんご畑に囲まれた巨大な倉庫では、うずたかくりんご箱が整然と積みあげられ、その傍らでは、音楽のようにりんご箱を作る槌音がリズミカルに響いています。そんな風景を当たり前のものとして育ちました。

りんご箱って何?

 青森にりんごがはじめて栽培されはじめた明治時代に、りんご箱もまた、りんご畑から市場、お店、家庭へりんごを届けるためにりんご専用箱として生み出されました。その規格サイズは貨車の大きさから決まったと言われ、材料は青森県南部地方の天然赤松材。箱には出荷の過程で農家さんこだわりデザインの屋号や、りんごの品種、市場の仲買人による記録が残ります。


 現在ではダンボールやプラスチックの箱も使われていますが、木箱に入れたりんごは保存性が良く色上がりが良いと言われ、津軽の市場では木箱が今日でも健在です。堅牢な作りの木箱は20~30年もの間、繰り返し使われます。


 青森の暮らしは、りんごとりんご箱に囲まれています。りんご箱は、ひっくり返して机にしたり棚にしたり、日本人の暮らしの中に次第に浸透していきました。いまなお収穫期、津軽地方の市場では、りんご箱が壮観を生み出します。

 近年、手間のかかるりんご栽培は、若い世代に引き継がれず高齢化し、多くの廃園が出現しています。そんな中で、若い世代からあたらしい農業への取り組みが生まれ、りんご畑の風景を守ろうとするムーブメントが起こりつつあります。りんご箱とりんご栽培は表裏一体です。青森の自然の中から人の英知と手が紡ぎだした農業の器であり、りんご生産術と流通が生み出した用の美の結晶ともいえるものです。

本プロジェクトの背景にあるもの

 県外へとりんごを入れて出荷された木箱は、再び青森へと返送され繰り返し使われて来たのです。しかし、近年、輸送コストから、関西より西へ送られた木箱は、返送されず、廃棄されていることが分かりました。りんごの生産と、木箱のリサイクルの調和に齟齬が生じています。りんご農業そのものの衰退ともに、それと表裏一体として生態系を形作るりんご箱の生産現場から、新たな価値を模索することで、りんごとそのメディアとしてのりんご箱の流通に新たな活路をもたらす方策となることを踏まえて企画されています。

りんご箱の風景を家具に

 このプロジェクトは、青森県のりんご箱屋と家具職人、建築家など、りんご箱に魅了された者たちが立ち上げました。りんご箱という青森県の人と自然が生み、育んだ類いまれなプロダクトのもつ文化と美点を、家具という新たな視点でリデザインすることにより、りんごを巡る文化を再評価し活性化する試みです。

 このプロジェクトでは、さらにりんご箱を用いて、店舗、住宅の内装や什器など多様な展開を行うことを計画します。また、りんご箱そのものの活用や流通の仕組みを革新する新たなアプローチを計画します。

 そんな未来への展開に向けて「最初のテーブルに着く」という意志を込めて、20~30年もの間繰り返し使われてきた古いりんご箱に家具材として新たな命と価値を吹き込み、又幸-Matasachi-の第一弾となるテーブルとスツールのセットを試作しました。家庭のダイニングセットやオフィス用のデスクなど、様々なシーンで活用されることを願っています。


 また、おかげさまで本試作品は、2017年ウッドデザイン賞受賞、2017年弘前アップルデザインアワード入賞しました。ウッドデザイン賞受賞の理由をご紹介します。


長期間使われたりんご箱をリデザインした家具で、記載されたさまざまな情報が物語性を持つ。こうした循環を得て、またあらたなりんご箱製造による木材利用が進むことが期待できる。
(ウッドデザインコンセプトブック2017より)

代表 姥澤大(うばさわまさる)


青森県板柳町生まれ。工学院大学建築学科卒。建材メーカーにて、住宅内装建材の商品開発を担当し、木材や鉄、樹脂など部品からのモノづくりを学ぶ。2005年埼玉でキープレイス株式会社を創業。2009年に拠点を青森に移し、家業の青森資材へ入社。2014年「北欧の名作椅子展 IN 北奥」を開催。りんご箱をインテリアに活用した提案で、TV、新聞などに取り上げられる。2017年「木のはこ屋」リニューアルオープン!


家具デザイン・制作 葛西康人(かさいやすと)

青森県弘前市生まれ。大学卒業後、電子部品製造工場に勤務。大鰐町のわにもっこでの家具製作修業をへて独立。2004年EasyLiving創業。注文家具を中心に家具製作を行っている。


家具デザイン 蟻塚学(ありつかまなぶ)


建築家。青森県弘前市生まれ。広島大学工学部卒業後、三分一博志建築設計事務所を経て蟻塚学建築設計事務所を設立。住宅等の設計と並行して地域や人と関わる小さなプロジェクトにも携わる。グッドデザイン賞、JIA東北住宅大賞など受賞多数。